企業において、労働者が病気やケガ、メンタル不調などで休職し、その後復職するケースは珍しくありません。
しかし、復職後の処遇、とくに昇給をどのように扱うべきかは、企業にとって判断が難しいテーマです。
今回は、労務管理の観点からそのポイントを整理します。
1. 昇給の基本的な考え方
多くの企業では、昇給は以下のような要素を総合的に考慮して決定されます。
勤務成績(業績・評価)
能力の向上
勤続年数
会社の業績や賃金水準
休職期間中は労務提供がなく、勤務成績の評価対象期間に含めないことが一般的です。
そのため、休職期間中は評価対象外とし、昇給判断の基準期間から除外することが多いです。
2. 休職者の昇給に関する選択肢
実務上は、次のような対応パターンが考えられます。
(1) 昇給対象外とする
休職期間は労務提供がないため、勤務評価ができず昇給の対象外とする。
復職後の評価期間に応じ、翌年以降の昇給査定で反映する。
就業規則や賃金規程に「休職期間中は昇給対象外」と明記しておくとトラブル防止になる。
(2) 在籍年数に応じて一律昇給する
年功的な昇給制度の場合、休職期間を含めて在籍年数で昇給を行う。
復職後のモチベーション向上や職場復帰促進の観点から、一定の昇給を行う企業もある。
(3) 部分的な昇給
昇給額を通常より抑え、休職期間の長さや評価対象期間に応じて按分する。
能力評価と在籍評価を組み合わせた折衷案。
3. 注意すべき法的ポイント
不利益取扱いの禁止
労働基準法や男女雇用機会均等法などで、傷病や産前産後・育児休業による復職者への不利益な取扱いは禁止されています。
とくに産前産後休業・育児休業からの復職者は、昇給・賞与・昇進等で差別的な取扱いをしないよう注意が必要です。
就業規則・賃金規程との整合性
休職期間中の昇給有無や評価方法について、明確に規程に定めておくことが望ましいです。
あいまいなままだと、社員間の不公平感や労使トラブルにつながります。
4. 復職後のフォローも重要
昇給の有無だけでなく、復職後の働き方や評価の仕組みを明確にすることが大切です。
試し出勤や短時間勤務制度の活用
業務内容・責任範囲の明確化
定期的な面談によるフォローアップ
復職者は職場環境や業務負荷に不安を抱えている場合も多いため、昇給の判断とあわせて復職支援策を整えることが、定着と再発防止につながります。
まとめ
休職から復職した労働者の昇給は、
「公平性」「法令遵守」「モチベーション維持」のバランスを取ることがポイントです。
就業規則や賃金規程に昇給の扱いを明記
評価基準を事前に説明
復職後の支援体制を整える
椎名社会保険労務士事務所では、
復職者の昇給・人事評価制度の設計から、就業規則の見直し、復職支援の制度構築までサポートいたします。
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