労災給付 非災害事業場の賃金加味 複数就業者を保護へ 厚労省が見直し方向性
業務上認定も合算評価 厚労省は、次期通常国会に労災法改正案を提出する。
厚生労働省は、複数就業者に対する労災保険適用の方向性を明らかにした。多様な働き方を選択する複数就業者が増加している現状を踏まえ、休業補償給付などについては、非災害発生事業場の賃金額も加味して給付額を決定することが適当としている。非災害発生事業場での賃金を基礎とした保険給付分については、全業種一律の負担とすべきとした。労災認定に当たっても、複数就業先における業務上の負荷を総合・合算して評価する考えである。
厚労省は、セーフティネットとしての労災保険制度を見直し、複数就業者が安心して働くことができる環境整備を図る意向である。「見直しの方向」では、被災労働者の稼得能力や遺族の被扶養利益の喪失の補填を図る観点から、複数就業者の休業補償給付などについて、非災害発生事業場の賃金額も加味して給付額を決定することが適当とした。
ただし、非災害発生事業場の事業主が、労働基準法に基づく災害補償責任を負うこととするのは不適当としている。災害発生事業場の事業主が、非災害発生事業場での賃金を基礎とした給付分まで労基法に基づく災害補償責任を負うことも、使用者責任を著しく拡大するものであり、不適当とした。
災害発生事業場の属する業種の保険料に関しては、現行と同様に、災害発生事業場の賃金に基づく保険給付額のみを、災害発生事業場の属する業種の保険料率およびメリット収支率の算定の基礎とする。非災害発生事業場での賃金を基礎とした保険給付分については、全業種一律の負担とする考えである。通勤災害の場合も業務災害に準じて保護すべきであるため、複数就業先の賃金を総合して給付額を算定する。
複数就業者の労災認定の基礎となる負荷の評価についても新しい考え方を導入する。それぞれの就業先の負荷のみでは業務と疾病などとの間に因果関係がないものの、複数就業先での業務上の負荷を総合・合算して評価することにより疾病などとの因果関係が認められる場合、新たに労災保険給付を行う。
現行においても、脳・心臓疾患や精神障害の労災認定の際に、複数就業先での過重負荷または心理的負荷があったとの申立てがあった場合は、労働基準監督署がそれぞれの就業先での労働時間や具体的出来事を調査しており、このプロセスは維持すべきとした。
なお、複数就業者とは、①同時期に複数の事業と労働契約関係にある者、②一つ以上の事業と労働契約関係にあり、かつ他の就業について特別加入している者、③複数就業について特別加入している者――が考えられるとした。